禁酒法―「酒のない社会」の実験 (講談社現代新書)



禁酒法―「酒のない社会」の実験 (講談社現代新書)
禁酒法―「酒のない社会」の実験 (講談社現代新書)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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「両極端の国」アメリカをより深く理解するために

映画『アンタッチャブル』や、アル・カポネの世界がより理解できるかな、くらいの軽い気持ちで本書を読み始めた。
だがそれだけでなく、本書は現代のアメリカを読み解く上でも重要なキーワードが多々含まれていると、思いを新たにせざるを得ない一冊だった。

一言で言えばそれは、
「両極端」
ということ。

自由の国と思われつつ、一方で酒類が人間を堕落させるから禁止すべきという主張がまかりとおる両極性。
これはイラク戦争等の現代まで続く、アメリカという国の本質なんだと思い知らされた。

本書はそのあたりを鋭く抉り出す。
移民国家であり酒が必要不可欠な人がいる一方で、敬虔なキリスト教徒が酒を諸悪の根源と見なすという状況。
禁酒法が発効されても、様々な抜け道によりそれが骨抜きにされる過程・・・。

すべて、現在まで通ずるアメリカ社会の二極性と複雑さを感じさせる。

アメリカの覇権主義が進行しつつある今だからこそ、読むべき一冊かと。
禁酒法は極端な立法ではなかった

 1920年1月17日に発効し,1933年12月5日に廃止された,いわゆる禁酒法(合衆国憲法修正18条と,これに従って生まれたヴォルステッド法)。
 「禁酒」という用語から,酒を飲むこと自体を禁止した法律なのかと思ったが,そうではなく,「酒類を飲用目的で製造,販売,運搬,輸出,輸入すること」を禁止する法律だった。だから,酒を買って飲んだ場合,売った人は処罰されるが,買って飲んだ人は処罰されることはなかった。
 すなわち,禁酒法は,飲酒行為自体を禁止・抑制する目的ではなく,酒造業者と酒場を淘汰すること(酒場の主人らが,ワスプに属さない政治勢力として台頭することの防止),労働者階級の飲酒量を減らすこと(生産性の向上を図りたい企業化の思惑)を狙った法律だった。禁酒法は壮大な失敗だったといわれるが,上記の狙いは不完全ながらもかなり達成されており,一概に失敗とはいえないのではないか,というのが筆者の結論である。

 また,禁酒法というと極端な立法のように見える。
 しかし,アメリカでは19世紀初頭から禁酒運動が組織化され,19世紀中からいくつかの州では禁酒法が制定・施行されていた。また,第一次世界大戦の熱狂の下,食糧確保の目的で穀物からの蒸留酒製造が禁止されたり,ビールのアルコールドを2・75%以下とする(ビールは敵国ドイツ人の業者が多かったので,目の敵にされていた)旨の立法等が成立していた。さらに,飲用や所持自体は違法としないなど,反対派の意向も十分に考慮した内容の法律となっていた。
 これらを考えると,禁酒法は,当時の状況下では極端な立法とは言えないのではないか,と筆者は言う。

 マフィア映画などで断片的な知識しかなかった禁酒法であるが,本書は禁酒法を取り巻く状況全体(執行機関の腐敗なども含め)を要領よくまとめたもので,とても勉強になった。

禁酒法の成果は?

 著者は日本における禁酒法研究の第一人者。
 本書は禁酒法について様々な側面から解説を加えたもの。「禁酒法」という法律の実際の内容、成立した社会背景、もぐり酒場やギャングの話、なぜ廃止されることになったのか。面白いのは、禁酒法を単なる悪法とはとらえていない点である。きちんとした目標のある法であり、一定の成果を挙げた点が記されている。まっとうな研究である。
 禁酒法時代のエピソードもたくさん紹介されており、興味本位で読んでも面白い。
 禁酒法についての入門書として最適の一冊と思う。
禁酒法あれこれ

南北戦争以前から脈々と続く禁酒・節酒運動から始まり,禁酒法へ至るまでの道のりと,禁酒法下での政治,経済,大衆生活などが幅広くカバーされている.第一次大戦から戦後の享楽的時期,大恐慌へ至る時期に,酒に対する大衆心理がどう変化したか,そしてそれに誰がどうつけこんで禁酒法を策定・廃止したかが明快に理解できたのが収穫.「グレート・ギャッツビー」のように,ジャズエイジと呼ばれた時代に,人々が大いに酒を楽しんだ印象がなぜ強いのかよく分かる.法を取り締まる側と,密造・密輸・密売する側,法の抜け道をすり抜ける者,禁酒法以前の居酒屋よりも数の増えたもぐり酒場などなど,興味深いトピックが満載.禁酒法が当時の価値観に照らして極端だったかどうか,また禁酒法のプラスとマイナスの面を検討している箇所は説得力のあるものだった.
「禁酒法」がもたらした弊害とその成果

 禁酒法といえば、映画「アンタッチャブル」で描かれているようなエリオット・ネス率いる禁酒法部隊とアル・カポネの巨大密造シンジケートの抗争をご想像されるのではないでしょうか。たしかに、これらの抗争が禁酒法時代のシカゴといった都市を象徴しているのです。

 禁酒法がもたらした弊害を一言でいうならば、取締りが功を奏さなかったこと、すなわち「ハドソン川の水をスポンジで干上がらせるようなもの」であったわけです。一方、一番の成果は「大量生産・大量消費の20世紀的な社会」の基礎を築いたことでしょう。実際、弊害が多かったのは事実です。また、わずか十数年足らずで廃止されている点からも、「実験」と呼ばれる所以がここにあります。
 本書は、アメリカの歴史的背景をある程度理解していないと多少苦しむかもしれませんが、禁酒法のについての知識を得るには入門的な書といえると思います。



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